By Brunel University under CC BY-NC-SA
Shin x blog 勉強会なんてやらなくても良いという記事がちょっと注目を集めていました。かれこれ10年ぐらい勉強会を開催したり、3年前と去年には勉強会とかコミュニティの本を出したり、僕もそれなりに頭を悩ませた経験がある方かと思うので、僕なりの現在の考えをまとめてみます。勉強会に悩む人の一助になれば、と思います。
参考文献
- イマドキのエンジニアの勉強事情(勉強会の種類)
- IT業界を楽しく生き抜くための「つまみぐい勉強法」 (技評SE選書)
- アート・オブ・コミュニティ ―「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには (THEORY/IN/PRACTICE)
自分がすごいと思っているものの存在を広めたい
勉強会を開催する上で、一番の原動力となっているフォースがこれです。例えば、「このイケてるプログラミング言語をもっと広めたい」「他の人と事例をシェアしたい」というのがそうですね。講師がプレゼンテーションするスタイル。メリットとしては、受講者が会場の許す限りスケールできる点です。できる人、経験がある人を呼んでくる必要があります。欠点としては、発表者の負荷が大きいこと。特に同じ物を紹介し続ける連続プレゼンで、講師が特定の人というのはよっぽど信心がないと厳しいです。あるいは有料化すべきですね。
最初から独立した大規模イベントとして開催するのは難しいので、その場合は関連する勉強会のイベントと併催とか、1セッションとしてプレゼンさせてもらう、というのも手です。
すごいと思っているのだけど、詳しい人がいない場合は、輪講スタイルも使えます。誰も詳しい人がいなく、全員フラットという前提になるので、発表順が回ってきた人の負荷は高めです。英語しか資料がない場合は負荷が三倍。また、ほぼ全参加者のモチベーションが高くないと途中で躓いたり、誰か一人に負荷が集中しがちという欠点があります。
逆向きのフォースとしては、正しいものだけをきちんと伝えたいというもあります。また、自分のキャリアを高めるために最大限利用したいなどもあるでしょう。その場合は勉強会というスタイルではなく、有料のセミナーとして開催するというのは当然ありえる選択です。海外のものなら、きちんと海外の提供元とライセンスを結んで・・・と。分断化を防ぎ、統一したブランドの元に正しいものをきちんと広めるのはビジネスとしてはよくある需要ですよね。マインドマップは登録商標で、きちんと認定講師のセミナーがあったりします。制約理論もそうですよね?
自分がすごいと思っているものを使える人を増やしたい
なんとなく名前は知っている人が増えてきたけど、敷居の高さを感じる人が多くて、実際に使う人は増えてない、なんとか増やしたい(そしてコミュニティ運営を手伝って欲しい)みたいなフォースです。ハンズオンやチュートリアルセッションを開催することで、実際の使い方をレクチャーすることができます。講師の負荷がものすごい高いのが欠点です。事前に資料の準備をして、必要なものをいくつかインストールしてもらうようにお願いして、当日も張り付き。だいたい無料だったりして、本当にモチベーションが高くて心が綺麗な人じゃないと何度もやってくれることはないでしょう。継続させるには、図書カード物納でもいいので報酬があった方がいいかな、とも思いますね。
適切な問題集が付いている本があれば、みんなでその問題を解く勉強会もできます。輪講とセットでうまく回しているケース(toRuby)もあります。問題が多すぎちゃうと、勉強会中ずっと黙っちゃったりしますし、問題の難易度次第でみんなが盛り上がれるかどうかが変わります。あと、RubyとかPerlみたいな解法がたくさんある言語の方が、結果を比較して盛り上がれるので楽しいと思います。
それ以外だと、勉強会の「認定講師」みたいなのを作る方法も見たことがあります。興味ある人は講師に立候補します。立候補するには一度以上、その会の主催する勉強会に受講者として参加しなければなりません。立候補したら、一度自分で少人数のトライアルのセミナーを開催します。出席者は立候補した人が自分で集めます。トライアルには主催者が必ず同席します。トライアルの結果も、問題なさそうなら、その人は自分でセミナーを開催することができるようになります。これ、そのままセミナービジネスにもなりそうなモデルですよね。
業界の先端事例をまとめて聞きたい
勉強会のメリットとして挙げられるものがこれです。一番目のものと微妙に近いのですが、「自分が聞きたい」というのがポイントですね。LTやカンファレンス形式などのごった煮のプレゼンテーションを開催する方法が考えられます。欠点は、イベントが大きくなってきてトラックが増えたりすると全部は聞けないし、自分が主催者で忙しくなるとやっぱりプレゼンが聞けなかったりして、「自分が聞きたい」という欲求を捨てざるをえないケースがよくあることです。発表者を揃えるのも負荷が高く、よっぽど注目度が高くて手を挙げる人がすごいたくさんいる&都内のケース以外は事前準備も大変です。
パネルディスカッションもうまく開催すればこの需要が満たせるかもしれませんが、事前の根回しや、パネルディスカッションをうまく誘導する司会の手腕にそうとうかかっていますし、時間が短いことが多くて、不発なケースばかりで、僕自身まだうまく成功させるステップが見えてません。誰かパネルを支える技術とか本を書いて欲しいです。
PyFesというイベントがあって、Vというヤツが自分の知りたい内容を発表できる人をどんどん指名してちゃちゃっとイベント運営しちゃっているのですが、これはそうとう難易度が高く、イベント主催者の信用貯金が相当溜まってないと難しいです。あるいは相当ふてぶてしいヤツじゃないとできないですね。
当然、これにも逆向きのフォースがあります。きちんと枯れたものを学びたい、と。大学のコンピュータサイエンスの授業で、流行ものだけを説明されても困りますよね。昔からある「これを読まない奴はDQN」みたいな本をみんなで輪講するとか、きちんとコースになった勉強をする、といった手法があります。
主催者も参加者もお互いに学び合う勉強会がしたい
会が大きくなってきて負荷が高くなってきてソウルジェムが濁ってくると、心を支配してくるのがこれですね。勉強会主催者の中二病とも言えるでしょう。「懇親会が本番」というのも、この要求の裏返しかと思います。主催者が思いがけないことを学ぶには、題名のない勉強会にする必要がありますが、題名がなければ人が集まりません。人を集めるための勉強会をダシにして、懇親会という題名のない勉強会を開催するというのがよく使われる手口です。
お酒が飲める会場でしかできませんが、勉強会開催後に勉強会の一環としてビアバッシュを組み込むケースもあります。もちろん、懇親会なんてのは、車が生活必需品ではなく、お酒飲んでも電車で帰れる都会人の贅沢ですので、地方ではそういうわけにはいきません。とちぎRubyでは、長めの休憩時間でお菓子を机に並べてみんなで談笑する時間を設けています。あとは、PySpaアドベントカレンダーで多くの人が語っていたPython温泉の深夜のタバコスペースの談笑もこれにあたると思います。欠点は、どうしても人数がスケールしない点ですね。1テーブルを囲むぐらいの人数が限界です。
何度も開催して、お互いに顔なじみになればなるほど効果があがるでしょう。「きっとこの人はこれが好きですよね」みたいな話が出てきたりするようになります。毎月定例で何年も開催し続ける、あるいは新規の人を抑えて、リピーター重視にする(PySpa方式)などもあります。PySpaの人たちとは普段からSkypeでつながっているので、アメリカにいても普段からいろいろチャットしていて、あまり日本の勉強会行かなくても寂しくないわー、という感じになっています。これも、日々占いができたり、名言記録ができたり、人が居続ける工夫がされていたりします。
勉強会そのものでも、参加者に発言の機会をたくさん提供することで、これを取り入れようと工夫されることも多いです。IT系以外の少人数のワークショップでは、参加者全員に意見を言ってもらいながら進行したり、というのもあります。最初に自己紹介、ポジションペーパー、アイスブレークで会話しやすい雰囲気を作る、というのもあります。ただし、人数が増えて班を複数に分けたりすると、主催者、発表者はちょっと蚊帳の外感を味わってしまうので、やはりうまくいかなかったり・・・
後は、講演者と、受講者をフラットにするアンカンファレンスというのもあります。僕自身はやったことがないですが、アート・オブ・コミュニティの10章に詳しい説明があります。
もちろん、いきなり仲良くしようというのは抵抗があるでしょう。勉強会には昔から、女性参加者がなかなか懇親会に来てくれないという隠れ問題があります。「懇親会が本番!」と声を大にして言うと警戒されるでしょう。目線だけで異性を殺せるようなイケメン・美女ならまた違うクリエイティブなソリューションがあるのかもしれませんが、聞いて帰るだけでも満足してもらえる勉強会はやはり必要かと思います。
アウトプットを出したい
勉強会をするからには、やはり目に見える成果が欲しいと思うことも多いでしょう。勉強会やコミュニティとして、開発合宿やスプリントと言われるものです。普段からオンラインで一緒に開発している人たちが、定期的に顔を合わせる場として開催されることも多いですし(Ubuntu Developer Summitとか)、各人が自由に課題を設定して好きにハックするイベントとして開催することもできます。また、ゴールを設けてコンテストにすることもできます。
欠点としては、拘束時間がかなり長くなるということです。The Art of Communityでは1週間以上は厳しいぜ、と書いてありましたが、日本で開催されているのはせいぜい2泊3日ぐらいでしょうし、一晩、朝から晩まで、みたいなのも多いと思います。それでも、普段の勉強会からするとセッション数あたりの時間は10倍以上でしょう。当然、モチベーションの高い人じゃないと集まって来ません。
逆向きのフォースとして、気軽に参加してもらうために、アウトプットを要求するようなことはしない、というのも当然考えられます。
備品・会場でかかるお金を工面したい
ちょっとしたワークショップをやる場合に少々お金が必要なことがあります。会場費に関してもそうです。ペンだったり、模造紙だったり。100円ショップで揃えたりというのもできますが、かかった費用は参加者からもらうべきです。あとはギリギリ細かい金額(1円単位)で平等に費用分担するのはやりすぎですが、1000円単位ぐらいに切り上げて徴収したり、会場費係、お菓子係など、おおまかに分担して、誰か一人に負担が集中しないようにしましょう。参加者が引け目を感じる状態では勉強会も続きません。
最近は無償で会場を貸してくれる会社もあって、Wifiもあって、無料コーヒーもあるような環境も都内ではあり、勉強会は無償でやるのが当たり前みたいな雰囲気がしていますが、負担の大きな発表者には還元があってもいいと思います。足代+飲み代+家にいる家族にケーキぐらい買って帰れる感じなら、継続できると思います(発表者が)。そういう意味では、ルノアールみたいな会場で、会場費+切り上げでちょっと余裕が出るような集金をする方が集金の心理的負担は少ないと思います。個人的な感覚としては、3000円〜5000円ぐらいなら全然気にしない金額。15000円だと1週間ぐらい考える金額。60000円以上は熟考するか、本当に結果が期待できる場合に払う金額・・・ぐらいのイメージです。本を出版した人は、本が1冊付いてくる、という名目で本代を加算してもいいと思います。ある程度多めに集めて、余ったら寄付というPySpa方式も、みんなでいいことをしている気になれるし、残金の管理や返金などの後始末を簡易化できるのでオススメです。
もちろん、スポンサーを募って、無料で高いアメニティサービスを提供することも可能です。僕がやっているXPのイベントなどでも、出版社から、本をプレゼント用に提供してもらっています。その場合は、イベントのページやイベント中などに、きちんとスポンサーに感謝の意をきちんと伝えるようにしましょう。また、学生は低額 or 無料と、差をつけてもいいと思います。
まだまだ色々あると思いますが
勉強会の改善については、運営の負荷を下げたい、有名な人と知り合いになりたい、発表の場が欲しいなどいろいろな要望があると思います。あと、どの方法をとっても、メリットとデメリットがあります。完璧な勉強会はないと思います。そして、勉強会をすれば時間を消耗します。エンジニアとしてきちんとアウトプットを出したり、勉強会の発表の場に立つには、勉強会以外の勉強も必要です。以前から何度も書いているように、勉強会に参加するだけでは勉強にはなりません。学校の授業でも予習復習が大事なのと一緒です。勉強会と一人勉強を組み合わせたポートフォリオを組み、ステップアップして、給料もらいつつ、自分も成長できる仕事を獲得するのが一番ですよね。