昨年の12月末で本田技術研究所を退職し、1月付けでDeNAに転職しました。ホンダが嫌いでやめたわけではなく、自分のキャリアプランや夢と合わなかったのと、DeNAであれば自分の力をもっと生かせるんじゃないか、と思ったからです。。
ホンダを辞めた理由
3年ぐらい前から、「定年まではここにはいないで転職しよう」と思っていました。元々ホンダに入ったのは、カタチのないソフトウェアではなく、カタチのある製品に乗るソフトウェアを書きたかったからです。エンジン制御とか面白そうですよね?実際に配属されたのは、社内SEの部署でした。最初の希望とは違ってはいましたが、SIerとは違い、お金や見積もり、競合といった殺伐としたことをあまりしないで、目の前にいる自動車の設計者と話をして、相手が喜んでくれる仕様を考えてシステムを作るのは楽しい体験でした。
ですが、社内で自分で手を動かしてシステムを作るよりは、外部に外注することが多くなったり、一緒に仕事している人が派遣から請負になって、システム開発がやりにくくなったりという環境の変化がありました。また年齢が上になってくると、自分で手を動かすこともできなくなりそうだったのも「今のうちに辞めないと、ソフトウェアの技術者として周回遅れになりそうだな」と危機感を持ったきっかけです。
決定的だったのが、本を書くことができない、ということでした。3年前に、ウェブマガジンの連載の依頼が来て相談したのですが、「本を書いたり、連載することは副業禁止規定に反するのでNo」ということでした。その後、いろんな会社の友人に就業規則を見せてもらったりしましたが、B2Cの会社の中でもホンダが一番厳しかったです。大手のテレビ局でも、「業務で知り得た内容は許可を取ること」「そうでない内容は自由」という感じだったり、ベンチャーであれば「積極的にどうぞ!」という感じでした。当時のマネージャが、総務と交渉してくれて「雑誌の記事なら社名を出さなければOK」と話をつけてくれて、とても感謝していますが、「日本のIT業界を元気にしたい!」と思っていた僕には、この規則は足かせになりました。本田労組も「余暇をゆっくりするために、十分に余裕のある給与を」というスタンスであったため、「副業を許可する」という方向ではありませんでした。
もっと自分を伸ばしたい
ここ数年で、とちぎRubyやPython温泉系のコミュニティなどに参加して、いろいろな仲間が増えました。自分自身のスキルも色々伸ばすことができましたし、学生時代以来あまりできなかった、自分のパーソナルブランドも少し強化できた気がします。この中で、自分の方向性に影響を与えた3人の人がいます。
@mitsuhiko
僕の100倍イケメンで、100倍プログラムができて、しかも若い(まだ21歳ぐらい?)。こんなやつがいるのか、反則だ、とも思いましたが、年齢が若くてもすごいできる人がいるのがIT業界の面白いところ。(写真1, 写真2)
こういう若者が日本に現れるには(@mitsuhikoはオーストリアの人)どうすればいいのだろうか?と考えました。IT業界は3Kとか言われたりもしますが(僕の周りは忙しくてもイキイキしている人が多いのですが)、やはり、僕自身がプログラマーとして楽しそうにして、元気な学生や若い人たちに「こうなりたい」と思ってIT業界に入ってきてもらうのが、自分にできることだろうな、と思いました。
@moriyoshi
同い年で、こんなにできて、技術を楽しんでいるヤツがいたとは・・・という気持ちです。自分の勉強不足をまざまざと見せつけられて、という感じです。自分自身のスキルをもっともっと伸ばしていかないとなぁ、と思いました。プログラマーは35歳が定年といいますが、あと5年勉強し続けても、まだまだ学びたいことは学び尽くせないです。一説によると、人材派遣的に35歳を超えると元が取れないから、らしいですが。
池澤さん
とちぎRubyの設立者の池澤さんです。今年還暦。僕も生涯現役でプログラマーという生き方がしたいな、と思っていたのですが、新しいことにつぎつぎとチャレンジされていて、同じぐらいの年の時になったときに、今の池澤さんに負けないようにがんばりたい、と思っています。
DeNAに入った理由
3年ぐらい前から「このプロジェクトが終わったら転職しよう」と考えていました。ホンダを辞めるタイミングで本が出るように、本を書き始めたりもしました。結局、プロジェクトの完了が1年伸びて、退職前に本が先に4冊ほど出てしまいましたが・・・
そういうことで、辞めるというのは規定路線でしたが、転職先はまだきちんとは考えていませんでした。そんな中、転職エージェントの方からメールがあって、話を聞いてみたら、なんかとても楽しそうだな、と言うことで面接を受けてみました。ちょっと前から知り合いだった人も次々にDeNAに転職しており、業績も伸ばしていて、「世界から注目される会社になりたい」という勢いも気に入ったので、入社を決めました。クラウドとか、大規模なユーザをさばくシステムに注目された1年だったため、少しでも実践の中でそのようなスキルを身につけたいなぁという考えもありました。また、英語は英会話の学校に通って勉強したりしていたのですが(ベルリッツだったのでお金は相当かかりましたが)、前職ではちょっと英語メールを書くぐらいでほとんど使うチャンスがなかったので、世界展開を狙っているDeNAでは、もっと生かせるんじゃないかと思っています。
仕事の時間は延びましたが、楽しくイキイキと仕事しています。今までは社内SEだったので、会社のメインの仕事(商品開発や研究)を直接することはありませんでしたが、今は将来戦略に重要な部署に配属されています。毎日が楽しくワクワクしています。今扱っているngCoreも、できがとても良く、オモチャとして仕事外でも遊びたいと思わせるものです。「py2jsを使ってPythonでiPhone/Android開発とか面白そうだなぁ」とか色々夢が広がります。他社のゲームメーカーさん向けのプラットフォーム提供という重要な任務もあり、自分の持てるスキルをめいっぱいつぎ込んで仕事しています。
ホンダが嫌いで辞めた訳ではない
最初にも書きましたが、別にホンダが嫌いになったというわけではありません。ホンダの作る商品はすばらしいものが多いと思っています。ネームバリューや、ヒエラルキー的には、アコードはそれほど高いと認知されてはいませんでしたが、現行アコードは、マークXをしのぐクルマだと思います。ハンドルを握った瞬間に、「このクルマはすごい」という気持ちがわき上がってきます。シビック(type Rを除く)も、シャーシの性能が高く、足が大きく動くようなセッティングになっています。「すぐにクルマに酔う」という彼女でも、僕のシビックの場合は、山道を走っても酔ったことがありません。フィットもユーティリティという面でトップクラスですし(スイスではタクシーとしても使われているそうな)、軽くて燃費が稼ぎやすいクルマです。現行になって斜め前視界も良くなりました。CR-Vも国内じゃほぼ見ませんが、乗り心地や視界などの面でとてもすばらしいクルマです。レジェンドも、社用車として使っていたうちの父親がずっと「ベンツだと思っていた(海外はアキュラブランドなのでロゴが違うため)」というぐらいですので、3倍の値段の価値がありますよ!
設計の姿勢を見ても、ホンダは多少の設計効率を無視してでも、一台一台にそれぞれ力を入れているように思えます。シャーシ共用とはいっても、かなりそれぞれの車種専用設計をしていると思いますし、シビック系車種のフラットフロアなんかは、シャーシ設計と、ハーネス設計などのハードなすりあわせがなければほぼ不可能だと思います。開発効率を重視するなら、ハーネスの通り道を先に決定してしまって、部署間のやりとりを減らす方が時間は減らせます。その分違うところに時間を使ったりできるようになるでしょうし、すりあわせがなければ丸ごと下請けに投げられます(実際、投げている会社はありますし、設計フロアに正社員がいない自動車会社もあるとか)。このあたりはリーンの1冊目の本にも確か、エアコンの吹き出し口がどうの、と書かれていたような気がします。「儲けを出す」という視点で言えば、売れない車種はもっと手を抜くべきなのかもしれませんが、国内専用の台数がそれほど見込めない車種であっても、世界中の工場で生産するような車種であっても、決して手を抜くことなく、全力でやっていました。他社とのOEMも今はありませんし、商品開発の作業効率は国内のメーカーの中ではダントツに悪い方だと思います。でも、その余計にかかっている時間は商品をエンジニアリング的に作り込むためのものですし、この価値を分かってくれるユーザーさんには届いているんじゃないかな、と思います。
もちろん、他社も色々がんばっているのは分かっていますし、クラウンハイブリッドとかはすごいなぁ、と思います。それでも僕はホンダのクルマに乗り続けようと思いますし、もしクルマが欲しいという人がいれば、ホンダのクルマを勧めます。ハイエースみたいに、同一カテゴリーのクルマがホンダに無い場合は除きますが。
まぁ、従業員数6桁の会社なので、僕が「ここがボトルネックですよ」と言えるようになるには、あと30年ぐらいして、運良く役員にでもなれたら、という感じだと思います。初期は2年で課長になれたリクルートが、今や20年かかるというぐらいなので、大企業はそのぐらいの時間の物差しで考えないとダメなんだろうな、と思います。何年も仕事していたけど、結局チーム内には部下も後輩もできなくて、ずっと一番の下っ端でしたし。
今後
DeNAの技術をリードできるような、DeNAを代表するエンジニアの一人に早くなりたいと思います。もっともっと自分を伸ばしていきます。そんでもって、プログラマーとして「この業界は楽しいよ!一緒に仕事しよう!一緒に世界を変えよう」と若い人達に言えるようになりたいです。言うだけならタダですが、もちろん自分が最高に楽しいと感じて、心の底から本気でそのように言えるようになりたいです。就職難とか言うけれど、僕の周りはいつでも人手不足です。業界の魅力を伝えて、やる気のある優秀な人がたくさん集まり、業界全体が元気になり(ITゼネコンだけ元気というのはなし)、世界での日本の地位をもっと上げられるようになりたいです。ITを使わない会社はありませんし、IT業界に優秀な人がたくさん入ってきて、業界が盛り上がるということは、日本全体を盛り上げることになると思います。
これからもよろしくお願いします。