ここでは要求を出す人をクレーマーと呼ぶことにします。理不尽な要求を出す人ではなくて。
先月「私をクレーマーと呼ばないで (アスキー新書 80) 」という本を読みました。個人が企業から軽んじられたような態度を取られたときに、いかにしてそれを取り返すか、という感じの本です。最初の章では「企業側にも改善を求めてWin-Winになるんだ」という感じでやさしく書いてあるんですが、中身は結構強烈です。「個人」vs「企業」で同じ力関係を持とうとすると、「個人」vs「企業の末端の人間」という場面では圧倒的な強者であることが必要になります。どう考えても「僕にはムリ」となります。だっていじめているみたいなんだもん。
どこまでお互いに大変な思いをしないで、改善していけるような仕組みを作れるか、考えてみました。心の電位差を小さくして、少ない労力で回るようにしていく、という意味で僕の中ではこういったところもアジャイルの他領域への応用、となります。
悪法も法。末端の人間からすれば、会社のルールに従って仕事をしているだけなのに、「それじゃ困る」「ルール変えろ」と言われるのは相当な負担になると思うし。例えそのルールが悪かったとしても。善悪は別にして、発注側が強いソフトウェア開発で最後になって「この仕様じゃ使い物にならん。変えろ」と言われて社内調整に走り回るのと、活動の大変さは変わらないと思います。当然、そんなことを言われることを前提にはしていないことが多いはずなので。
この、クレームを言われる側の立場で書かれた本もあります。「プロが教える」という名前が入っているので、クレームをさらりさらりとかわしているような内容かと思いきや、企業とお客様の板挟みになっていて辛い話とか、お客様が何を言いたいのか、なかなかはっきり言ってくれなくて困るとか、苦労話がいろいろ書かれています。この方は派遣みたいですが、窓口としての活動はしていても、社内のすべての部署の活動を把握して、そこにお客様の意見をダイレクトに伝えられるようになっている企業というのはそんなにないと思います。
そういう窓口の攻防があったりする一方で、ユーザやお金を支払った個人に対して「お金を払えばいいや」的な企業がいることは確か。団体vs個人であっても、ミクロには個人vs個人になるわけで、「相手をたたきつぶす」という思想ならば、個人vs個人に持ち込んで、そこでの勝利を積み重ねるというのがランチェスターの法則(企業経営ではなくて元になった戦術理論の方ね)。でも、そこまでがんばりたいわけではないし、もっと気軽に意見を聞いて欲しですよね?そうなると、団体vs個人という枠組みをとること自体が問題であって、何かしらの団体vs団体の形を取る必要があるんじゃないかな?と思います。
個人vs団体を支援する組織のサンプルとしては、労働組合があります。給与天引きで組合員のために活動をする団体です。20世紀は「生活環境の改善」ということで、理想の生活に足りない差分を要求する、対決的な活動が中心でしたが、21世紀の活動は、会社のマネジメントの目が行き届かない部分を提言して改善を図っていく共存関係というのが一つの労組活動の理想らしいです。もちろん、未だに会社の経営が傾いているのに争議しまくる団体とかもあったりしますし、パートや派遣が増えている現状に追いついてない、労使癒着などの問題はありますが(wikipedia参照)・・・
これを例として考えると、新しい形の個人支援のビジネスが描けます。例えば量販店とかデパートとか。購入額に追加の費用を払ってもらったら、何かあれば企業に対する要求・提案は請け負いますよ、窓口になりますよ、という感じ。消費者の組合みたいな感じですね。どれだけユーザの利益のために活動できたか、というアウトプットがそのお店の価値そのものを高める。逆にユーザの要望を聞き入れない企業に関しては取引の縮小などの圧力もかけることもできるし、ある程度の力は持てるはずです。優良なメーカーは、このようなリスク対策費をユーザが払う必要性は低いので、優良メーカーになればなるほど、ユーザは費用負担も減って、サポートに力を入れている企業への追い風になっていくんじゃないかと思います。
もちろん、この形が使えない場面もあります。国内のクルマのディーラーのように取引先が一社限定の販売店とかね。労使間もそうだけど癒着いかに防ぐか、など、「組織を作る」というタスクには、「自浄作用(フィードバック制御)をどのように組み込むか?」「力関係は適切?」など色々難しいことがあるんで、そう簡単にはいかないかもしれないけど、一つのアイディアとして考えてみました。
消費者団体というのもあるけど、本来は法律が登場するのは最後の最後。法律の力を借りないでも企業の経済活動の一環でみんなが成長でき、ルールを破ったものは市場経済から閉め出されていく、というのが自然な流れだと思うので、経済的なメカニズムになる必要があると思います。