ざっと読みました。なかなかに読みやすくて良かったです。僕はファッションの業界はほとんど知らない状態で、ザラとしまむらが流通的に面白いことをやっている、ぐらいの知識しかありません。でもザラの中には入ったことがないし。そういう意味ではほとんど知らないも同然。
ブランド構築の一事例として読むとなかなか面白いです。ビームスという会社の小さい会社のメリットを生かした大規模経営(というほどの人数ではないが)を学ぶことができます。僕はシンプルな用の美を追求したモノが好きではありますが、世の中の多くの人(とくに目立つ人)にとって、デザイン、ファッションというものがますます比重を高めている、というのは想像できます。僕は違うけど。気になったキーワードは「タイムラグ」「縦割り」。
■タイムラグ
「タイムラグ」というのは、最先端の少数の人から、値段重視の消費者まで層があり、流行はその中を時間をかけて少しずつ浸透していく、というものです。そして下流ほど層が厚いと。ビームスはあえて最先端ではないけど、流行に比較的敏感な1/3ほどの層にフォーカスする、というマーケティング手法をやっている、という話でした。最先端も多様化している中でのリスク分散という意味もあるとかないとか。
このあたりはデルの手法に通じるものがありますね。超高性能なマシンをイメージリーダー的に出すのではなく、こなれて比較的高性能なマシンを中間マージンなしで安く出す、というアレです。デルの場合は法人客の囲い込みなど、ビジネスツールを作る製造業ならではの違いもありますが。後はコンピュータ業界で言えばJUDEかなぁ。UMLツールとしてリリースは比較的遅い方でした。その分、使いやすさにこだわり、マインドマップとの融合など、ちょっと新しめのスパイスをちょっとずつ加えていく、というあたりはビームスの戦略の相似形な気がします。
■縦割り
「縦割り」は同じビームスブランドの中にもいろいろなスタイルのお店があり、それぞれが自主性を発揮しているという話。縦割りごとに個性を発揮する権限と実力がある。マネジメント層の交代に端を発して、意図せずこのような組織になったとか。家具を扱うところがあったり、さまざまな切り口で幅広い層にブランドを浸透させるのに成功したそうな。そして一つのスタイルに集中することで、ブランド価値下落のリスクに対応できているとか。
■自動車業界でビームススタイルを実現するには?
この手のものは開発リードタイムが短く、比較的多くの種類の商品を並べることができるファッション業界ならではかもしれない。まぁ、でも製造業でも使えるかも、という気がしたので、自動車業界でビームススタイルを取り言えるなら?という思考実験をしてみました。
まず、多種多様なクルマが用意できるか、というと自動車の開発には長い時間がかかるのでムリ。日産はデジタル技術を活用してノートの開発を短期でやったと偉そうに言っていたけど、その割に新型車があんまり出てこないところを見ると、条件がそろわないとその短期でやりきるのは不可能ということだろうね。その中で多種多様性を生み出すにはエアロとかホイールとか、インテリアとかのカスタマイズパーツ。ホンダや日産は全ディーラーで全車種取り扱い、という戦略に転換したということは、車種で差をつけるのはリスクが高い(人気車種を持っていないディーラーからは不公平)。
例えば、アメリカン、ちょっとラグジュアリー、スポーツ、近未来、DIYなど、何種類かのテーマを設けます。ディーラーは、店舗の広さに応じて、そのいくつかをチョイスして店舗を作ります。1つの店に2〜3のテーマがあるのが理想かな。そして、そのテーマごとのカスタマイズ車を並べていきます。車種は全車種取り扱いだけど、テーマごとにデザインが異なります。通常、エアロを買う場合はだいたい+20万円とかになりますが、エアロを付けるの前提で裸の状態でメーカーがベース車種を生産すれば、エアロを選ぶという敷居がぐっと低くなります。しかも、テーマごとにスタイルを提案する、という統一的なマーケティングができるようになります。今もメーカーがクルマを出すときは2〜3種類のデザインを選ぶことができます(+20万円だけど)。そういう意味では、今の開発費をそこまで増やすことなく、数種類のキャラクタのブランドを構築していくことは可能だと思います。
■★★★★☆
アマゾンのレビューはそんなに良くないけどね。料理として食べるとちょっと薄味かもしれませんが、料理を作るための材料と考えれば、こんな感じで思考実験するネタとして参考になる話が多いです。まぁ、考えるのが好きな人向けかな。読んで「あぁ、いい本だったね」という人には向かないかも。
posted by @shibukawa at 00:00
|
Comment(133)
|
TrackBack(0)
|
読書記録