XP祭り2015の感想を書き始めたのですが、脱線した内容が爆発してきたので、単独のエントリーにしました。その感想で紹介しようと思っていたのが、僕がぼんやり考えてきたことで「業種問わず、仕事はどんどん狭く深くなる」ということです。
例えば、ソーシャルゲーム業界は、どこもガラケー時代に比べて利益率が落ちていますが、これは必然です。これは、ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? に書かれている、「平均回帰」で説明できます。少ない手間でたくさん利益を生むような「金鉱」的な市場が開拓されたとします。その初期にはたくさんの好収益企業が出てきます。チャンスを狙って多くの会社が新規参入してきますし、コンソールゲームを出すよりも利益いいんだったら、こっちに参入したほうがいいよね?みたいな話も出てくるでしょう。そうなるとプレーヤーが増えてきます。
そういう中で売上上位を獲得するにはどうすればいいでしょうか?それは開発期間をかけてよりゲームとして深みのあるシステムを組み込んだり、デザイナーを多数起用して美しいグラフィックを隅から隅まで配する他ないでしょう。幸い、スマホの性能はガンガン上がっているため、コストに見合うビジュアルは出せます。そうして開発費が高騰すれば利益率が下がっていきます。最近では広告の投入も必要です。で、他のゲーム開発と同程度までは落ちる可能性があります。もちろん初期には(今でも少しは)変化球なゲームが突発的に人気になったりしますが、アイディア一発だと類似ゲームも出しやすいので、よっぽど真似しづらいブランドを獲得しないと(マンボウとか、ねこあつめとか)同じく平均回帰が起きます。
じゃあ、Unity 3DやUnreal Engineみたいな新技術を使えば有利になるかと言えば、そういうわけではなく、他のプレーヤーも同じような水準の技術を使えてしまうので、全体の技術の底上げになっても、相対的な差別化要因にはなりにくいと思います。変化が激しければそれについていくだけでも競争に勝てる可能性はありますが(JavaScript界隈のように)。
といっても、これはソーシャルゲーム固有ではなく、開発費が少なくて済む開発しやすいハードが普及したタイミングでよくある話です。初代PlayStation、Nintendo DS、ガラケー、iPhoneやAndroidの黎明期には新規参入が増えていますよね。
どこまで利益率が下がるかというと、そろそろ限界値が見えてきているかなーとは思っています。これ以上広告費を入れる余裕のないタイトルも多いと思いますし、ここから更に大幅に人を増やして投入できる余裕がある会社もそんなにあると思えないですし(資金力ではDMMさんとかすごそうですが)、集客で有利になるIPの活用もすでに行われていますしね。有名クリエーターを起用してのキックスターターという資金調達も話題性で良く取り上げられますが、成功確率がそれほど高くないと言う話もちらほら。そろそろスケールメリットで勝負する時代になってきている気はしていますし、弊社もある程度規模があるからこそ↓こういう運用改善に工数をかけるのを許容してもらえている、と感謝しています。
自動車とか
また、利益率がとても良い業界でなくても、競争が厳しくなれば、同じように開発コストをかけてより高度に複雑な機能の開発が行われるようになります。自動車なんかはその最たる例でしょう。
燃費を考えなくても良い時代であれば単純です。デカイエンジンを乗っけて高回転で回せば「イケてる車」は作れました。速い車という点だけで見ても、直線距離が速いだけでは勝負にはなりませんので、トルクベクタリングや高度はAWDでトラクションのムダを無くすといったことが必要になり、統合制御が必要です。古くからの自動車マニアが壊れたレコードのように「MT!2ドア!FR!」と叫んだところで、自動車会社の主戦場は速いクルマでなくて、日常で燃費が良くて居住性が良くて安い車です。こうなると、すごい手間暇かけてエンジンを細かく改良していったり、1cmどころかmm単位でイスの位置や車の骨格をいじってパッケージングを改良したり、部品の共通化や量産効果を上げる工夫をして達成します。そういう意味で、規模の勝負になっています。
規模の勝負になると、開発はどんどん高度化し、1人の人が見られる分野がどんどん狭くなっていくため、その分開発に関わる人数が増えたり、外注に出す部分が増えていきます。分野が狭くなると、ジョブコンバートも難しくなるので組織をどう成長させるかの戦略も必要になります。マネジメントのレベルが低ければ、高度化する中で人手が足りずに個人の負荷がどんどん高くなって回らなくなるでしょう。外に投げるにしても、品質のハンドリングの手間が取れなくなったりします。特に電装系がやっかいです。「内製でやる方が技術力が高い」と思いがちですが、高度化のカーブの見積もりを誤ると、人手が足りなくて業界水準から遅れを取るということになる危険性もあります。
ちなみに、電気自動車というとすぐに「駆動系が汎用部品になれば自動車会社が潰れる」みたいに言う人が湧いてきますが、単純に考えてそんなことはないですよね?Unityとかと同じで、汎用部品ということは自動車会社だってそれは使えるわけで、そうなると量産効果とパッケージングで差別化すれば勝負になりません。デザインを一部修正して出している光岡の値段を考えれば、一台をフルスクラッチで少量生産する時の値段の想像がちょっとは付くでしょう。汎用部品でもそこからの改良にお金を投じた競争がそこから始まりますしね。だいいち、エンジンだってエンジン専門のサプライヤーがあったり、会社間で提供も行われているので、既に他社から買うというのは今でも普通に行われています。少量生産の自動車メーカーもいろいろあります。そのような会社は、パフォーマンスカー路線か、デザイン路線かのどちらかで、値段での勝負はしてません。なので、今いる自動車会社は潰れないと思います。
ちなみに、テスラは当初はボディは外部調達の、電気によるパフォーマンスカー路線でした。その後はトヨタGMの合弁工場跡を買収して量産体制を整えているし、電池の生産ラインも整備しているので、間違いなく大量生産メーカー路線を順調に行っています。なので、テスラは既存の自動車会社に近い体制を整えていますし、テスラを例に「参入は簡単だ」という説明をするのは難しいかと思います。
開発以外
開発職では成果の高度化が目に見えやすいのですが、実は他の職種でも同じなんだな、という例をXP祭りでは聞くことができました。岩切さんのセッションでは、在庫切れのメカニズムについて、その原因となる事象を把握しているのは社内のIT部門の人のみでだったという例が紹介されていましたし、その金融系のルールを理解しきっているドメインエキスパートはそんなにいない(信用して痛い目にあった)とQ&Aのところで話が出ました。
考えてみれば当たり前で、仕事ができる人ほど、細かい内部の仕組みなどはブラックボックス化してしまって、それを最大限活用して利益を産む方向にフォーカスするのは容易に想像できます。もちろん、完全に把握してないわけではないと思いますが、多くの部門にまたがるすべてのインタラクションを理解している人はそうそういない、ってことですよね。それこそ業務改善でいろんな人の業務を理解しようとする岩切さんみたいな人とか、業務改善を生業としている人ぐらいってことですよね。