- 前回のエントリー:「納品をなくせばうまくいく」を読んでません
著者の倉貫さんから、「納品」をなくせばうまくいくの献本をいただきました。ありがとうございます。
日本人の日本人による日本人の顧客のための本
今まで出ていたソフトウェア開発方法論の関連の書籍の多くは、英語から翻訳された本でした。また、基本的にメインの想定読者はソフトウェア開発側のメンバーです。当然、ソフトウェア開発者の言葉を使って書かれています。翻訳者もみなプログラマ側のメンバーでした。もちろん、読んではいけないということはないし、読んでもらった方がメリットがある本も数多くありますが、必要な部分とそうじゃない部分をうまく切り分けつつ、欧米の文化と日本の文化の違いを考慮に入れつつ、自分の立場に合わせて情報をカスタマイズしつつ読むのは簡単ではないでしょう。
本書は、徹底的に「日本のお客様」視点に立って書かれている本です。「ソフトウェアがビジネスに必要なのは分かるんだけど、ソフトウェアの開発とかわからんし、エンジニア雇うのも簡単じゃないし、ぼったくられたらいやだ」という日本の顧客むけです。実際のお客様の言葉なども盛り込んであって、お客さんの不安を解消し、成功しそう(失敗しなさそう)という気持ちになってもらう、という姿勢が徹底されているなと思いました。
アジャイル本として
基本的には「日本のアジャイルの本」です。ただし、ユニットテストだリファクタリングだなどという野暮ったい言葉は登場しません。アジャイルという言葉も必要最低限だけしか登場しません。
とはいえ、著者は日本XPユーザグループの二代目会長でもあった倉貫さんですし、「アジャイルを顧客にきちんと概要を把握してもらうには」という長年の苦労の結晶のような本であると感じました。アジャイルそのものに関する細かい歴史や理論とか、俺のアジャイルみたいな暑苦しい話はありませんが、シンプルな仕事の流れ、ソニックガーデンが大事にしている価値観や行動原則、既存のソフトウェア開発者向けの本にはあまり出てこなかった、お金と契約に関する話が書かれています。
本書の使い方としては、弾幕として使うのが有効かと思います。とにかく、アジャイルな仕事をしたいけど、どうしてもウォーターフォールな流れしか知らないお客さまがいたら、本書を何冊か送りつける。そんなに長くないですし、ビジネス書の体裁でわかりやすくテンポよく書かれています。開発の流れを掴んでもらって「いいね!」と言ってもらうための弾です。もしお客がさらにガッツリとしたアジャイルに興味が出てきたとしても、本書の知識が前提となって理解しやすくなるはずです。本格的にプロダクトオーナーとして開発に参画する気が起きたら、スクラム関連の本とか、アジャイルな見積りと計画づくりあたりを勧めれば良いかと思います。
ただし、平易な本であるがゆえに、プログラマが読んだ時に「これさえ読めばアジャイルはばっちり」というわけにはいきません。参考文献の長いリストなんかがあると、「なんか小難しいなぁ」と警戒されかねないところなのでこれは仕方がないかなと思います。プログラマ諸君は各自勉強すべし。
ということで
読んでみても、納品をなくせばうまくいくは良い本だと思いました!
ちなみに前回書いた闇の話とかはなかったです。