大学のサークルの後輩の吉村総一朗(当時呼び捨てで呼んでたと思うので、あえてこのまま敬称略で書きました)から、高校生からはじめるプログラミングを献本でいただきました。ありがとうございます。
IPを使った表紙、フルカラーの本文、高校生どころか老眼鏡を使うような人でも読みやすそうな大きな文字、「(」の記号の入力の仕方から教えるような今まで無かったというか、小学校入学前の子供をターゲットにしたたのしいプログラミング Pythonではじめよう!(ただし原著。日本語は漢字や英語の習熟の問題もあって中学生以上がターゲット)の方がストイックなぐらい。こんなにコストがかかったプログラミングの本は見たことがないです。その徹底ぶりが評価されてか、Amazonのランキングでも上位に常駐しているようです。羨ましい限りです。
内容としてはHTML/JavaScript/CSSを入力してブラウザで動かしてみよう、というノリです。かつて僕が衝撃を受けた、ラベルをウインドウに貼り付けることでコードを一行も書かずにHello WorldができてしまったVisual Basicに近いアプローチです。関数とかメソッドとかクラスとかそういうのはどうでもよく、まずは動くものを表現して、徐々に新しいオモチャを提供していくスタイルです。今日ではコードスニペットを利用することも多く、Twitterのボタンを作ってみる下りはそういった操作の紹介もされています。
どこまで初心者に配慮すべきか問題と体育の授業
「チュートリアルの記事を公開したり、インターネットで困っている人を助けるといった活動はどこまでやるべきか」というのを議論したことがあります。個人的には初心者に対するサポートという意味ではオールインワンのインストーラでWindowsユーザーでも安心だし、ドキュメントにはコピペ素材が満載のPHPというのが1つのベンチマークだと思っていました。ツールやライブラリもPHP並に初心者をファシリテートしてあげるのが大切だと思っていました。僕がドキュメントツールのSphinxのコミュニティを作ったり、Pull Requestを投げたりするのも、こういった考えからです。
しかし、そこまでモチベーションが高くなく、質問ばかりしてチューターのやる気を削っていくような人もいます。そういう人は放置すべき。千尋の谷から突き落として這い上がるやつができるやつ、みたいな考えを持っている人もいます。コミュニティ運営やドキュメント整備などを行う人のリソースの少なさを考えると、残念ながらこうせざるを得ない言語やフレームワークのコミュニティも多いかもしれません。僕もPHPを基準に考えていますが、そこまで来られなかった人は残念ながらそれ以上のサポートはちょっとムリと思っています。
しかし、子供の頃に体育の授業が苦手で体を動かすことが苦手だったけど、オトナになってボルダリングをやってみたら楽しかった、インラインスケートをやってみたら楽しかったといった体験をする人が増えています。サッカー、野球のようなスポーツではなくて、マイナースポーツ系のコミュニティに行くと「元運動嫌い」のオトナはたくさんいます。千尋の谷方式というのはこの体育の授業のようなものです。「人と比べられるのが嫌なだけで体を動かすのは嫌いじゃない」人にもまんべんなく「楽しんで継続してもらう」ことはリソースが少ないとできません。これは授業が悪いというよりも少ない教師数で30人、40人の生徒を教えるというリソースの少なさが問題です。実は才能があったかもしれない子供が早期にあきらめてしまうといったこともあったかもしれません。
この本は自習できる書籍という形で提供されており、さらに豪華な装丁で「コンピューター怖い」という人にも優しくアプローチしてくれると思います。小学校からプログラミングを、みたいな話もあります。Scratchとかになるとは思いますが、当然中学、高校と学年が進めばより実用言語の方向に進んでいくでしょう。現状のリソースでは体育の授業の「運動嫌いのオトナ」が量産されていく可能性の方が強く、個人的には子供のころからのプログラミングの授業導入はどちらかというと(僕も運動嫌いだったので)反対でしたが、こういった本が増えて、自習できたり、授業外で親が教えたりといったことで落ちこぼれない仕組みができるならもしかしたら悪くないのかもしれない、と少し思いました。
個人的にはアスキーでやっている連載のように少し自分の実力よりも背伸びした内容で、自分の好奇心も満足させながらじゃないと一冊分の集中力は続かないので、この本のような本は僕には書けないなということもあり、著者の努力はすばらしいと思います。
「献本は誤用でご恵贈が正しい」みたいなのも見かけますが、誤用とか勘違いが広まって文化になる、みたいなのが好きなのであえて献本にしました。「けんぽん」。声に出すとかわいい日本語。